2013年5月7日火曜日

茶々

 秀吉がひとしきり接待をして人だかりがな
くなり、ふと見ると、遠くに六歳になった秀
俊と二十一歳の茶々が、手をつないで楽しげ
にそぞろ歩いていた。
 日々成長を見守っていた茶々が今日は一段
と大人びた色香を漂わせているように秀吉の
目に映り、五十一歳の心をかき乱した。
 秀吉は側にいた従者に命じて、秀俊と茶々
を連れてこさせた。
「金吾はどうじゃ、楽しんでおるか」
 秀俊は浮かない顔をしていた。
「今日は宗易の話が聞けませんでした」
 利休は、あちらこちらの茶室に引っ張り凧
の大人気だった。
「でも、御菓子をいただいたではありません
か」
 茶々が優しく言った。
「御菓子をもろうたか。それでも金吾は宗易
の話がそんなに聞きたいか」
「はい。御菓子の楽しさは食べてしまえば終
わりますが、宗易の楽しい話は長い間残りま
す」
「ほぉう。で、どんな話を聞きたかったのじゃ」
「堺の町人の話です。変わり者やお調子者の
話などつきることがありません」
「ほぅほぅ。それはわしも聞いたことがない
の。今度ゆっくり聞いてみたいものじゃ」
「私も聞いてみたくなりました」
 茶々が笑って賛同した。
「もう足が疲れました」
 秀俊がしゃがみこんだので、秀吉はすぐに
従者を呼び、抱かせて屋敷に帰らせた。
 秀吉は、残った茶々としばらく話し込んだ。
 この時、秀吉は茶々を側室にすることを決
めた。