2013年6月27日木曜日

落胆

 秀秋は切なさと歯がゆさが込み上げてきた。
そして、今までとは違い、弟のように話した。
「三成殿。もはやこの戦、私がこの城を奪っ
たことで勝敗は決しています。毛利家は以前
から家康に内通し、秀頼様を確保しているこ
とは三成殿も感ずいておられるはずです。家
康はいつ死んでもおかしくない年寄りではあ
りませんか。それに比べれば、三成殿はまだ
お若い。仮に家康が天下を取ったとしても跡
継ぎにはたいした者もおりません。ここは一
旦、秀頼様と共に身を引いて、しばらく我慢
して時期を待てば、いずれ必ず豊臣家に天下
は帰するでしょう。私がこの城を奪ったのは
豊臣家を守るためです。家康は私が説得しま
す。三成殿、どうか和睦を受け入れてくださ
い」
 三成は青ざめた。
「そのようなことは毛頭考えの及ばぬこと。
秀秋殿はご存知あるまいが、家康は異国の者
と手を組み、手に入れた大砲を使って、戦を
異国の者らに見せようと企んでいます。家康
は和睦など毛頭、考えてはおりません。その
ような家康が、もし天下を取れば、いずれ異
国が攻めてきます。それを家康の跡継ぎが防
ぎきれるでしょうか。もはや一刻の猶予もな
いのです。私はこの一戦に全てを賭けます。
せめて、この城に残した兵糧と武器をお渡し
ください」
「異国のことは、私も心配しています。我ら
よりも強力な武器を作り、彼の地を次々と我
が所領としていると聞いております。そんな
武器や三成殿が揃えた明の武器を使ってこの
まま戦えば、いまだかつてない死者がでましょ
う。それで喜ぶのは、異国の者ではありませ
んか。秀頼様に天下を束ねる力がなく、三成
殿にもその意志がないのなら、今は異国の者
を味方にしてでも天下を取ろうとしている家
康殿を頼るしかないではないですか。ここに
あった兵糧や武器を三成殿にお渡しすれば家
康殿に疑われます。また、多くの死者をだす
ことになります。残念ですがこのままお引取
りください」
 三成は言葉なく落胆し、一礼して立ち去っ
た。
 秀秋は、三成の帰っていく後姿を寂しげに
見送った。
(三成の言うことも分かる。しかし、豊臣家
でも異国から攻められれば防ぐことはできま
い。この戦がそれを示しているではないか。
今は家康に賭けるしかないんだ)
 三成は陣に戻ると迷いを断ち切った。今と
なっては、この大戦で自分たちの生き様を秀
秋に伝えるしかないと考えた。